「裏庭」
以前からもう一度読みたいと言っていた裏庭をやっと再読した。
- 作者: 梨木香歩
- 出版社/メーカー: 理論社
- 発売日: 1996/11/01
- メディア: 単行本
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―丘の麓のバーンズ屋敷に何か秘密があることは、当時その辺りの子どもなら誰でも知っていた。―
その冒頭から引き込まれる。
飲まず喰わず全ての生理現象をそっちのけで読みふけった。
再読とはいえ5年ぶりだ、細かいところは忘れている。
ファンタジーである。でも、そのあらゆるシーンにちりばめられた暗喩が重い。
多分アダルトチルドレンの話だからだ。
展開はちょっとショッキングでビターテイストな千と千尋といえる。しかしそこには頼りになる姉御肌の先輩もいないし、ハクも最後まで一緒に闘ってはくれない。
初めて読んだのは夏休みの課題図書のために。でも、書けなかった。読むのさえ苦痛だった。照美に同化しすぎていたからだ。
それだけにこの本は私に強く影響していたらしい・・・と、再読して気付いた。
おおまかなストーリーはこうだ。
照美が「裏庭」という幻想世界にて過酷な体験(冒険)をしながら、孤独で自由な存在としての「個」に気付いていく。一方現実世界では、照美を一時的に失うことで母親や父親も彼らの呪縛から開放されていく。
照美にとって裏庭での冒険というのがエポックなのである。
裏庭を旅するなかで「人は生まれるときも死ぬときも、多分その間も徹底して独りぼっちなのだ。」と「お腹にたたきこまれるようにして」知った照美が見つけた、生き抜くための唯一の方法は「全身全霊を集中して、何とか次の場面に展開させる地味な作業を、もくもくと続け通すこと。」であった。
そして照美は最後、自分の「裏庭」(バックヤード)の萌芽を感じ親や他人から切り離された個として現実世界に再び現れる。
「私が私になりたいと思うのは、息する方法を手にいれたいと思うのと同じだ。どうしてもどうしても必要な事なのだ。生きていくのに欠かせないのだ。私は、頭のてっぺんからつまさきまで、ぴっちり私になりきりたい。」
誰しもその過去にエポックとなる冒険があるのだろう。
あるいは、まだ冒険の途中であるかもしれないし。冒険は一度じゃ足りないのかもしれない。
照美は13歳で気付く。私は何歳で気付いたか。もっと遅かった気がする。少なくともこれを読んだ当時はまだ「根の国」を彷徨っていたし、コントロールできない感情は・・・今もまだある。冒険は終わっていない。