梨木。。
以下、友人Tへのメイルです。梨木香歩の感想文。
*自分のなかで処理できていない部分も多いから、読みにくいと思います。文章長いし。気をつけろー!!
梨木香歩については、「西の魔女が死んだ」という作品に出会ってから気になる存在でした。その後、何のめぐりあわせか、課題図書になっていた「裏庭」を読み、すさまじい衝撃を受けたのです。神秘低な始まりと話の各場面に出てくる児童書とは思えないほどの精神的・肉体的暴力性、それにもかかわらず全体に通奏低音として流れる特殊な静けさ、話のテーマ性・・・どれをとっても、私にはあまりにも恐ろしくて、同時に心に強く訴えるものがあり、読み終わった日の夜は全く寝付けなかったよ。「裏庭」以降あまり活動はなく、今回新作が出るということで、舞い上がりそうな気持ちでいたのです。
まず、読んだ順に・・・
<家守綺譚>
- 作者: 梨木香歩
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2004/01/01
- メディア: 単行本
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非現実と現実の世界が日常的に混ざって存在するのは、今までどおり梨木のテーマでした。が、「妖怪の世界」を取り扱う、と聞いて疑問!? 京極をはじめとして、各メディアでも「和もの」「妖怪」が軽くブームとなっている今、同様のテーマを扱うというのは、これはヒットを狙っての話ですか?と、ニヒリストの私。いくら梨木を信じているとはいえ、そんな考えがちらほら脳裏をよぎってしまう。だからまあ、新刊は嬉しかったんだけど、期待は半分に読み始めたのでした。
しかし、読み進めてしばらくたって、その考えは全否定の方向に。いや、もし波に乗るのを狙っていたとしても、それをカバーするだけの文体と構成力が作者にはありました。感服。
私的にもクリティカルヒットです。「大正」「非現実と現実の混在」「ノスタルジヰ」・・・ていうかもう「和もの」自体、私のツボなのよ。そして柴犬lover☆(ゴローって柴犬よね?)可愛すぎる!Tの表現は的確だね。私の感想を言い当ててもらったみたいで、ありがたいような・・・まあ、変な気持ちです(笑)。「飄々と」、何かを超越した様で、しかし芯のある高堂。「俗っぽく」でもマイペースで人の良い綿貫。どちらも魅力的ですよね。二人の関係はちょっと「陰陽師」の清明と博正に似てるかなと思ったり。基本的には個人主義だけど、お互いに信じ合っている関係というのは美しいよ。どうも、男女だとその関係の純粋さが濁ってしまうようで駄目ですね。
主人公綿貫やその他の人物の素晴らしいのは、不思議な出来事に出会っても、驚いてとっさにそれを否定したりせず、じっくりと受け入れていくところだよね。これは、村田氏にもいえるけれど。
全体に流れる透明な空気やゆったりとした時間の流れがすごく好きです。(ああ、やっぱり思い出すと雨のイメージが強いねえ。)
Tの言ったように「幸せ」とアピールしなくても、誰もが心のなかにそれを持っていた時代、本当に憧れるわ。でも作者は確かこれを大正時代と明示してはいないね。いつの時代にかかわらず、意識の持ちようでこういった生活を営むことはできると思う。それが私に実行できるか?といったら・・・謎だけど。この本を読んでいるだけでも、あの屋敷で、綿貫になりかわって耳をすまし、雨の音、食べ物の味、頬に当たる風を、そこに潜む魂や霊さえ感じとっている気がします。それで一応満足しているつもりかな。
「蟲師」大好きです!って言っても、全部読んでいるわけじゃないんだけどね。異形のものとの交流を描くことで、なにかと境界線を引きたがる人間の性質に上手く切り込んでいると思うよ。いつか借りるか買うか漫画喫茶かなんかして読むつもりさね。
<ところでエフェンディ。> 注;本人ぐるぐるしてます。
- 作者: 梨木香歩
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2004/04/27
- メディア: 単行本
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本のカバーか帯にディミトリスの言葉が書いてあったよね。はじめは何を意味しているのだか、よく判らなかったのだけど。最後のあたりに再びこの言葉が出てきたときは、その重さに息を呑みました。「およそ人間に関わることで私に無縁なことは一つもない」。世界情勢が混乱している今だから余計に、重い言葉でした。
根本的なところでの人間性のつながりは国境も文化も越えるのだという確信と、しかしそれすら断絶させてしまおうとする国家という暴力の残酷に気づかされたよ。個人が如何にしても抗いきれない、残酷な力が世界を覆っているという現実の無情さに辛くなりました。
本当は、国家なんて、国なんて、存在しないんだと・・・(もともと私は左な考えにかたよりがちなんですが)そう思いたい。しかし、各々の国という母体のなかで育てられてきた文化(宗教や習慣)は、ゼロにしてしまうにはあまりにもったいない。「国」は盲目的に愛するには危険すぎるけれど、かといって完全に憎むこともできない。本当に、私は「国」とどうやって付き合っていけばよいのだろう?
この本で革命的だと思ったのは、文化理解の中でももっとも手強い「宗教・信仰」を一緒に住まわせることは可能だと言ったところです。そして、それぞれの神を一緒に住まわせるのに成功したのが、日本人であったということも・・・。暗に、日本の八百万の神を受け入れる精神的柔軟性が希望となりうることを示唆しているようにも思えたよ。イラク戦争でも、キリスト教とイスラム教がお互いに理解し、手を取り合うことができればいいのに。そのために、日本は何ができるだろう?どうやったら村上氏のように、神を受け入れ、なだめて一つの社会の中に住まわすことができるだろう?
確かにいろいろ考えさせられる本だったけれど、この本から直接受けた感動以上に、私はTの手紙にひどく打たれました。Tの受けたショックは、(良い意味で)もっと強く深刻だったみたい。貴女のなかでめぐっている考えが、立体構造のまま伝わってきて、私はむしろその心の動きに感動しました。私は、正直いってそこまで深く読み込んでいなかった上に、読後、バスの中で不覚にも涙ぐんでしまった気持ちが何なのかを説明する言葉も持っていなかった。貴方の手紙で説明不足が補われた感じです。中東の街の雰囲気、西欧東欧中東アジアの人々と文化が混ざりあうといった場面のエキゾチックな魅力ばかりに気をとられていて、最後の急展開でやっとこの作品のテーマに気づいたくらいです。
「どうして私の精神は、今のこの時代、この体に宿ったのだろうか」
もう宗教的問いに近いけど、この命題はプラトン、ソクラテスの時代からずっとずっと考えられてきたこと。しばらくこういった人間の根源に関する問いからは離れていたので、それに再び触れる機会を与えてくれた貴方に感謝です。私の中で、今答えを出すことは難しいけれど。ともすれば「全てのものに意味なんてないよ」といったニヒリズムに陥りがちな典型現代人の私ですから、この命題は戒めとして持ち歩いて、ときどき取り出して眺めてみようと思います。ありがとう。それに、こういった観点から民族学をやるのは、すごく意味のあることだと思うよ。
<二つの話のづづき>
綿貫はそれなりにまったり生活しているようで、安心しましたが。村田の現実が辛いです。でも彼の強さでなんとかやっていけることを期待します。そして言葉を失った鸚鵡が・・・かつての希望の火をもう一度照らしてくれるように祈るばかりです。続編が出るといいよね。作者に手紙でも送ってみますか?変なプレッシャーになるから迷惑だろうか?
<あとがき>
ああ、いつもとテンション違うけど、こういう種類の話は好きです。
Tの表現が上手くて、私もそれにならって考えてみることで、理解が深められたきがするよ。ありがとう。冒頭にも書いたけど、梨木の「裏庭」は上の2部作とは違って、もっと個人の内面的な問題を掘り下げていくようなテーマだけど、Tの感想もできれば聞きたいので、時間を見つけたらぜひ読んでみてください。ちなみに、私はこれを思春期まっただなかに読みました(主人公と年近いうちに・・・苦笑)。救われた・・・気はしないけど、個人の意識の中の攻撃性というのをここまでリアルに表現した作品はめったにないよ。
- 作者: 梨木香歩
- 出版社/メーカー: 理論社
- 発売日: 1996/11/01
- メディア: 単行本
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絵本も3、4冊ほど出しているのだけど、そちらもお勧めします。彼女は「死」を珍しい形で扱うけど、何というか納得してしまうというか、生命のサイクルの上で死とは、自分にとっても周りにとってもプラスにもマイナスにも属さないことなんだなあと不思議な悟りが開けます(笑)あ、このテンションであさのあつこ語りは出来ませんよ絶対!次のメールに回す。
- 作者: 梨木香歩
- 出版社/メーカー: 理論社
- 発売日: 2004/01/01
- メディア: 単行本
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