愛すべきダメ人間たち

もう一度載せる。

四畳半神話大系

四畳半神話大系

四畳半神話大系」を読ませたくて仕方がない。

私は自分が読んで「これは!」と思った本は人にも読ませたい。それは、もうお腹いっぱいと言っている人間の口をむりやりこじ開けて食い物を詰め込むようなものである。相手にしたら迷惑千万なのは承知だ。しかしこの衝動は抑えがたい。どうか、読んでくれ。1600円くらいする。高い。だが、それ以上の価値は必ずある。ちなみに、これは小説だ。

すばらしいのは、まず主人公の性格。
・現実を否定し、常に後悔している。
・自信過剰でプライドが高い。
・なんかこう、ふはふはした「黒髪の乙女」と付き合う夢をもてあましている。
・自分だけはひたすら紳士的であろうと努力し、かつそういう自分が好きでもある。
・「脳ある鷹は爪を隠す」という諺をモットーに、今は隠されているが、自分には何事かをなしうるだけの天性の素質があり、条件がそろえばいつでもそれを発揮することは可能だという絶対的な確信を持っている!
・一方、自分はほとんど棚上げで、もとはといえば○○が悪かったからだなどと他人のせいにしてばっかりいる。


うかがえるのは器の小ささと、こいつは救いようのないダメ人間であるという、深いため息を伴う実感。物語は終始、彼とその周りの(彼に輪をかけた!)様々なダメ人間たちだけで構成されていく。しかし、そんな大学生の悶々とした生活が、非常にあっさりと明るく描かれていて、すごい。ところどころで出てくる京都の風流な町並みの描写なども、臭いの強い物語をうまい具合に消臭している。
ダメ人間たちが全身全霊を尽くして成し遂げる数々の最高に「無意味」な行為が、あまりの現実味のなさにファンタジー冒険譚といっても過言でないほどのエンターテイメント性を持つという現象が、この本のなかで起こっている。ただの浮かない学生生活にもかかわらず、「次が見たい!」という衝動を読者に沸きあがらせる。この魅力はただごとではない!
現に私は結構なボリュームのあるこの本を3日で読み終えた。遅読みの私で3日である。ますますただごとではない!


<注意>
読んだ直後は作品の文体が読者に影響するものである。私の場合はそれが健著に現れる。今回もそうだ。だから、もし四畳半神話体系を既に読んだというオツな人がいたら、この文体が森見氏に似ているとしてもご容赦いただきたい。